引用元の『妖精現実』にアクセスするのは、ブラウザにMozilla FireFoxを使うことをオススメします。 Operaじゃ悲惨な事に、Internet Explorer7以降では表示できなかったりします(2007/02/15時点)。 自己責任でよろしく。
『妖精現実』[ http://www.faireal.net/ ]で書かれた内容のうち、pochi-pがメモしたいと思った一部を、適当に加工した上で勝手にミラーしてるページです。
引用したのは2007/02/15 22:18時点の
[ http://www.fairyland.to/BakaMemo/2006-08.php ]
の一部です。
勝手にミラーしている理由は察してください。
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Winny流出も意外と公共の利益になっている?というメモですが、 その後分かったところでは、おもしろいことに、愛媛県警はあれが本物の流出文書だと認めて、 謝罪文(反省文)のようなものまで公開していました。愛媛の人は純朴で律儀なのでしょうか? そんな単純な話でもないでしょう。 これだけ物証がある以上、 単なる開発者を「ほう助」としている事実との均衡からして、 A警部をWinny不正使用事件の正犯、個人情報保護法違反の正犯として、起訴するのが相当でしょう。
そしてあのとんでもない(国会でまで問題になった)「被疑者取調べ要領」を流出させたA警部と、 それを作成した捜査官は別人、ということも分かりました。そこで、 以下の文章を一部、書き直し、さらに追記したような理由から(愛媛県警は反省文の中でさえ、否認・黙秘を「かたくな」「悪い」と誤解しているので、一般にはさらに誤解されてるのではと思い)、「黙秘権の意味」について別記事でちょっとだけ書いてみました。 『DEATH NOTE』で、Lが「キラの情報を教えれば第二のキラの罪は問わないという司法取引は無理でしょうか」と言いますが、 この司法取引というのも、実は、黙秘権と密接に関係してたりします。そのあたりのこともちらっと。
てきとーな文なので、話半分に読んでください。
被疑者取調べ要領という物体。
検索して調べると、
愛媛県警察本部の刑事部捜査一課に所属する42歳のA警部がWinnyで遊んでいて感染したといった経緯が、
公式に発表されている。
http://www.police.pref.ehime.jp/soumu/ryusyutu_chousa.pdf
「取調べ要領」は、警察学校で教官をしていた人が作成して、A警部に参考として渡したもの。
2006年4月20日の時点での国会答弁では「真偽を認めること…は差し控えたい」だったが、
2006年6月16日付けの上のPDF文書で、本物の警察の内部メモであることが、公式に明らかにされた。
どうせWinnyでやっていたことも、Winny開発者の純粋な意図に反して、ろくでもないのだろうが(それも違法なのだろうが)、 注目すべきは、警察学校でとんでもない教育をしてるという事実だ。
「調べ室に入ったら自供させるまで出るな」 「否認被疑者は朝から晩まで調べ室に出して調べよ。(被疑者を弱らせる意味もある)」 などと書いてある。
違法どころか、違憲である。 日本の憲法38条1項は 「何人も、自己に不利益な供述を強要されない。」という供述を拒む権利(自己負罪拒否特権)、いわゆる黙秘権を保障しているはずだ。 自供させるまで絶対引かない、なんていったら、憲法違反になってしまう。(法律的には、刑事訴訟法198条)
「調べ官の「絶対に落とす」という、自信と執念に満ちた気迫が必要である」とか、
被疑者の言うことが正しいのでないかという疑問を持ったら負けとか、言っているが、
これでは、
こういうあほくさい事実が明るみに出るのなら、Winnyという優れたソフトを、間違えて使って迷惑をかけているユーザーの愚行も、 少しは世のためになる…のかもしれない。 実際、この流出文書の内容のひどさについて、国会でも質疑が行われ、 上記のような反省文も公開されたのだから、一時的にしても、一定の社会正義の実現になっている。
ただ、いくら警察が腐っている事実が分かったところで、何もできるわけではないのだから、 かえって知らない方が幸せという気もする。 こういう指導をするアホ教官ばかりでなく、警察には高潔な人格者も多いと信じたい…。
しかし…。日本の警察の取り調べに問題があるのもまた事実で、 外務省の資料で読めるが、国連の人権委員会から、きついお叱り(懸念と勧告)を受けている立場なのである。 また、国連の批判を待つまでもなく、日本の代用監獄や、取り調べについて、 問題が多いことは、多方面から指摘が続いているとおりだ。
国連からどんなお叱りを受けて、何をどう改善しろと言われているのかは、次の記事で簡単に説明しよう。
このメモの最初のバージョンでは、上記(流出もとの)A警部がこの文書の作者であると考えていた。 そのため「Winny禁止を言い渡されているはずなのに、それを守らない問題警部だから、 その指導内容は特に問題が多い可能性があり、警察全体としてはもう少しまとも」という、 警察にとって有利な解釈をしていた。
ところが、愛媛県警の発表によると、 これはAでなく、別人のベテラン捜査官が警察学校の講義のために作成したもので、 それをAが譲り受けただけだという。 つまり、同「要領」の内容のひどさと、Aの問題行動は無関係で、最初のような警察にとって有利な解釈はできなくなってしまった。
公開されている反省文では、内容の一部が取り調べ方法に疑念を持たせ「不適切」であることを認めているものの、 「朝から晩まで調べ室に出して調べよ」といった表現は、 「被疑者の頑なな心を開かせることの重要性を伝えようとしたもの」であり、 不法な長時間の取り調べや強引な手法を肯定する趣旨ではないと主張している。
この主張の真偽はともかく、表現に問題があったと認める反省文の中でさえ、 なお、被疑者の「頑なな心」=「罪を犯しているのに認めない」という間違った大前提が見られ (そう取られても仕方ない表現をしており)、 無実の人が被疑者になっている可能性、黙秘権の本質が理解されていない点、悲しい。
当事者の警察が理解していないのだから、ましてや一般の人からは誤解されている面もあるのではないか (黙秘権=悪人がシラをきるのを認めるヘンな権利などと)。 そこで「黙秘権の意義」の説明を、この2個下に簡単に書いてみたので、 興味がある人は読んでみてほしい。ダイジェスト版で、ここでも具体例を。
あなたがささいな経緯から友達とけんかして、相手の顔を殴ったら、 相手がよろけて倒れて「痛え」とうめいた。腹が立っていたので「けっ」と言い捨ててそのまま帰ったら、 何と友達は倒れたときの打ち所が悪く、 そのまま死んでしまったとしよう。こういうことは別に殺人鬼でなくても、 日常ちょっとしたことから起きてくる可能性がある。
このとき「殺すつもりなど絶対なかった」というのが事実関係だとしても、 往々にして取調官は「つもりはなかったでは済まない話です。 実際に人を殺してしまったんですよ。反省していないのですか。 打ち所が悪ければ死んでしまうことことは分かるでしょう。それは認めますよね」などとややこしいことを言って混乱させた上で、 結局のところ「絶対殺すとまでは思わなかったが、死んでしまう可能性があることは分かっていて殴った」と1万回くらい繰り返し、そう「自供」させる方向に持って行ったりする。 事実関係からすると「殺すつもりゼロで行動した」=「死んでしまう可能性があると分かっていれば絶対殴らなかった」と答えるべきだが、 友達を殺してしまって動転しているわけだし、一般の人に、そんな答は期待できず、 何が論点になっているのかさえ分からないだろう(「傷害致死」と「殺人」は全然違う。 「殺人」は死刑もある。 故意(殺意)がなければ殺人にはならないが、 未必でも殺意があれば殺人。殺意なくぶん殴ったら死んでしまったら傷害致死。 殴る故意もなく不注意から偶然手が当たったのなら過失致死)。
事実が「傷害致死」なら「傷害致死」は償わなければならないが、 いくら悪いことをしたのが事実でも、事実でないこと(殺意)まで自供させられるいわれはない。 これもれっきとした「不利益な供述を強要されない」の一例だ。 質問の意図自体がよく分からなければ、意図が分からないので弁護士と相談しないと答えられないと言うとか、 答えたくないと言うとか、まったく黙っているのもあり。 実際にそれをやるとかなりの確率で精神的嫌がらせを受けるが、長い目で見れば、 事実に反して「殺人罪」を負わされるより良い。
このように、黙秘権を使う(あるいは殺意を否認する)ことは、愛媛が言うような悪い意味で「かたくなな」態度ではなく、 「傷害致死より派手な殺人で立件して成績を上げたい」といった取調官の行き過ぎを抑えるために保証されている権利である。 ましてや、まったくの誤認で、あなたが無関係の場合は、全面否認せざるをえず、 かたくなに否定するのは実際にやっていないから当たり前で、 「被疑者のかたくなな心を開かせる努力」など筋違いもはなはだしい。
逆に、実際にやっている場合にとぼけると「反省していない・捜査に協力的でない」などということで量刑が重くなるのはもちろん、 何より、あなた自身が、生涯、償わなかった罪の重みを心に負っていかなければならなくなってしまう。 そういう意味でも、黙秘権は犯人がとぼけていいというより、犯人でない人が犯人に仕立て上げられないための重要な安全装置と言える。
取り調べを妨害する(協力しない)ことが趣旨の権利ではなく、行き過ぎた(間違った)取り調べから国民を守る権利なのだ。
(詳しくは2個下の「黙秘権の意味」参照)
取り調べに問題があること自体は、もしまだご存知ないなら、「代用監獄」などのキーワードで調べていただければ良い。
戦前や戦時中の頃よりは改善されているものの、残念ながら先進国のクオリティーには達しておらず、
死刑判決を受けた中でさえ
ここでは国連から言われていることをご紹介する。 皮肉にも、Winny事件の取り調べにも当てはまる問題だ。
規約第40条に基づき日本から提出された報告の検討 B規約人権委員会の最終見解
25で「刑事裁判における多数の有罪判決が自白に基づくものであるという事実に深く懸念を有する」と言われている。
その意味は、きちんとした物証がないのに、「任意に自白」したと称して、それだけを証拠に有罪にされているのは、 非常によろしくない、ということ。どうしてよろしくないかというと、任意性が怪しいからで、 愛媛の警察学校のように、 被疑者の方が正しいとは絶対に思わず、絶対に落とすという執念と気迫で、自供するまで絶対引かない、 という取り調べ方だと、冤罪(ぬれぎぬ。無実の罪)の危険が高いからである。 もちろん、この教官の指導が特にとんでもないだけで、平均はもう少しは比較的悪くない可能性もあるのだが、 とりあえず、国連の人権委員会から「深く懸念」などと言われてしまっている立場なので、 こういう傾向が程度の差はあれ、警察にまん延していると見られる(というか、国連にそう見られてしまっている)。
じゃあどうすればいいのか、というと、上の文書の続きだが、 人権委員会では、 「自白が強要により引き出される可能性を排除するために、…取調べが厳格に監視され、電気的手段により記録されるべき」と勧告している。
要するに「ビデオで全部撮っておけ」と。そうすれば、 裁判官やら傍聴人やらに「これは誰がどう見ても事実上の強制ではないか」と思われるような取り調べはできなくなり、 「執念と気迫」とやらで迫られたり、事実上、だまされて署名させられたり…といった事態がかなり改善されるからだ。 現状は、「任意で自白しました」という書類だけが残って、そのプロセスはブラックボックスなのに、 裁判官は「本人が任意でそう言っているのだから間違いない」と証拠にして、有罪にしてしまう。
取り調べの録音録画なんて欧米の感覚では当たり前(記録してなかったら、任意かどうかどうやって検証できるの?)、 必ず記録しなければいけないと義務づけられているわけですが、 日本はなぜかやってないので(テープ代がもったいないからでもないでしょうがw)、 そういう勧告を受けている模様。 公正な取り調べをやっているなら、正々堂々と記録できるはずなのに、なんかちょっと、 こういう部分は、けっこう前時代的…。 任意かどうかテープを巻き戻して検証するというより、記録しているんだぞ、ということで、 調べる側もあまりずるいことはできなくなるという、そういう心理効果があるのでしょう。
Winnyの開発者も、適当な作文調書に「強制的でない強制」(?)によって「強制的に任意」(?)署名させられてしまったのだろう。
ところで、陰湿で強引な取り調べにもメリットがある、という少数意見としては、 その根拠として、甘い取り調べでは自白させられない、厳しく追及する必要があるのだ、というのがあります。 正々堂々と厳しくなら良いでしょうが、「被疑者が言うことは正しくない」と決めてかかって「気迫」とやらで供述させるのは、別問題でしょう。
そして、このさじ加減というかですが、最終的には、だいたいこういう選択になるかと思います。 いまゲームとして、ホントに悪いことをやったやつ「黒」10人と、 ホントは無実なのに運悪くとっつかまった「白」10人がいるとして。 プレーヤーは取調官、得点は「黒」を有罪にできると+1、「黒」を無罪にすると-1、 「白」を有罪にすると-1、「白」を無罪にすると+1、とりあえずこういうモデルにすると。
犯罪者全員を罰することができ、検挙率も高い「強引取調官」より、実は3人逃している「頭脳取調官」の方が優秀であることを観察せよ。 犯罪者を犯罪者と見抜くことは重要だが、犯罪者でない者を犯罪者に仕立てないことはいっそう重要だからである。 「判断が難しいときは白側に倒すべきである」という推定無罪の原則がよく分かるだろう。 黒を白判定するのと、白を黒判定するのとでは、後者の方がはるかにまずことで、 人間に誤りが避けられないなら、黒を白判定する側に過った方が良い。3人の黒を逃した頭脳取調官は、まさに模範的プレーヤーである。 一方、優秀でない取調官は、
…という理由によって、「気迫と執念」戦略をとる可能性がある。これはある意味、最善手に見えて、 実はそうでないのである。
それを示すために、実際のパラメータを検討すると、 殺人のような明確な事例では、ホントの犯人が被疑者になる可能性が高いと思われ、黒10に白1くらいの配合だろう。 それ以外の「明白でない」事例では、ケースバイケースで、 Winnyの作者のような事実上の思想犯では黒10に白10、まったく五分五分と見られる。 しかしそれら両極端の間で、平均すると、黒10に白3くらいだろうか。
次に、得点の付け方だが、取調官が黒を黒認定するのは基本で+1だが、白を黒認定するのは非常に間違っており-1では済まない。 -100くらいだろう。黒を白認定するのはあまりよろしくないが、白を黒認定よりはずっと良いことで、 推定無罪の原則もあるからゲーム上失策とは言えず、むしろデフォルトであり-1としておく。 白を白認定するのは当たり前で、+1である。以上のパラメータ修正後に、上記2ゲーマーを再評価すると…
頭脳取調官は+7だが、強引取調官はマイナス890点ということをやっている。
そして、ゲーム的には、優秀でない取調官は、全員を白認定するのが最適戦略になるが、 それでは悪人を有罪にできないので、結局、
われわれは、黒10に白3の割合と仮定しているので、強引取調官は(1)作戦ではマイナス7という失態、 (2)作戦ではマイナス290という失態となる。 (2) が愛媛の警察学校の数学モデル的解釈であり、 最初に述べた「プラマイ0」作戦が間違っているのは、実は重み付けが±1でなく、 誤判定のタイプによって重みが違うので、(2)は(1)より得点がずっと下がるからである。
無能な取調官は、基本的に全員白判定し、 反省して自主的に自供してくれる犯人(それもけっこういるだろう)だけを黒判定するようにするのが最適戦略である。
よって警察学校で教えるべき正しいアプローチは、
人手不足など、現場には厳しい事情もあるのだろうが、 そのせいか、物証を得ようとせず、 手っ取り早く怪しそうな「被疑者」をしょっぴいて「本人が自白したので間違いない」という調書に仕立ててしまう傾向がある。
Winnyの開発者のようなどう考えても一般人よりはるかに知性レベルが高いと思われる東大の先生でさえ、 だまされて作文調書に署名させられてしまったのだから、 一般人や、まして頭脳的プレイが苦手な人間など、簡単に誘導されてしまうだろう。 「どうせこいつらは人間のくずで、叩けばほこりが出るのだから(どうせ何かしら悪事をやっているのだから)、 これが冤罪でもトータルではOKだろう」くらいに思っているのかもしれないが、 粗雑な考え方と言うしかない。
—— L: キラの情報を教えれば第二のキラの罪は問わないという司法取引は無理でしょうか
黙秘権とは、自己に不利益な供述を強制されない権利だが、 しばしば「捕まった犯人が質問に答えず黙っていること」のようなイメージを持たれる。 警察がリークする情報に「犯人のくせに黙秘を続けている」というほのめかしが多いためだろうか。 こうしたイメージは黙秘権の本質とまったく関係ない。
日本では、取り調べにおける黙秘権は、刑事訴訟法でより具体的に定めているのだが、 おおもとは、法律どころか憲法で保証している基本的な国民の権利です。 憲法の38条1項で 「何人も、自己に不利益な供述を強要されない」と。
ここで「犯人が黙っている権利を保障するとは変な話だ」と思われる方もいるでしょう。 黙秘権は「犯人が黙っている権利」を保護しているのではないのです。 憲法のこのあたりに何が書いてあるかというと、 くだいて言うと、
…というわけで、決して悪人を保護しているのではなく、 お役人の行き過ぎた(強引な)行為をストップさせるためのルールが並んでいる場所です。 たとえ相手が真犯人でも、きちんとした手続きに乗っ取って扱わなければいけないということ、 そして特には犯人でない者を犯人に仕立て上げることや、 たとえ犯人であるとしても、罪状を勝手に作文することを、やめさせるための規則です。
逆にもし「不利益な供述を強要されない」という保障がなければ、どうなるかというと、 「不利益な供述を強要されることもある」ということになって、どう考えてもろくでもない結果を招くでしょう。 もし仮に強要されることもある(被疑者は取調官の意に従って話す義務がある)として、 黙っている権利がないとしたら、 その被疑者の義務を強制執行する手段として、結局、拷問での“自白”となってきます。 38の1で「無理やり自白させるな」とお役人にストップをかけたうえで、 38の2で「拷問して話させたことは証拠にできないぞ」とさらに二重に鍵をかけ、 38の3で「自白だけで物証がないなら罪にできないぞ」とさらにしつこく明文規定しているところから、 これ以前が相当ひどかったのだろう、ということも何となく想像できます。 36で「公務員による拷問…は、絶対にこれを禁ずる」とわざわざ「絶対に」と念を押しているところなど、 ほとんど恐怖です…。
なお、これは現在の日本の憲法が全体として良いとか悪いとかの話でなく、 自己負罪拒否特権(いわゆる黙秘権)が、どういう文脈にあるのかという話です。 「悪いことをして捕まったくせに、悪事を認めず黙っている悪人保護の規定」ではなく、 「取調官が思い込んでいる犯罪ストーリーにそって自白を強制することをやめさせる規定」であるわけです。
このような二重三重の取り決めがあってもなお、現在、上に述べたような行き過ぎた取り調べの問題があり、 冤罪(事実より重すぎる罪状認定も含む)も、あまりにも多いという程度ではないでしょうが、 まれでもないという状態です。 死刑囚でさえ再審無罪になったりするのを見ると、それほど重くない罪ではけっこうでたらめもあると思えます。
「司法取引」は、黙秘権を別の角度から理解するのに役立ちます。
『DEATH NOTE』にも出てきた言葉だったりします。
「キラの情報を教えれば第二のキラの罪は問わないという司法取引は無理でしょうか」
とLが4巻80ページで言ってます。
ライト父は罪がでかすぎて無理だと言いますが、ホントは日本では司法取引自体が認められていないのです
(非公式、秘密裏のものならあるかもしれませんが…)。
これは自己に不利益な事実を供述してもらう代わりに、一定の免責を与えるものです。 例えば、「わたしは脅迫ビデオをテレビ局に送って、それを利用してキラさんと会いました。キラさんとはこういう人で…」といった供述について「黙秘権」を失わせる(供述してもらう)代わりに、 「脅迫ビデオをテレビ局に送って…」については罪に問わないと約束する、ようなものです。 「Xをやったと供述してもらう=黙秘権を失わせる」→補償としてかなりの特典が与えられる、ということ。 言い換えれば、黙秘権はそれなりに重い権利。
日本では司法取引は認められていないと言いましたが…
例えば、P2Pソフトでファイル交換をして捕まった場合に、 検察官は「ゲームや映画のソフト多数を共有して○億円の損害を与えた」といった変な略式起訴をする可能性があります。 たぶん5000円のDVD20本分を365日共有していて、 毎日1回くらいダウンロードさせただろうとか、何かそういう計算なのだろうと思いますが、 1ユーザーが○億円の損害を与えているなら、映画会社は兆の上の京の単位の逸失利益が出ていることになり、 P2Pがなければ国家予算を上回る収入を得ていたはずだ、という強引な計算です。 それでも、逮捕されてしまった人としては、それに異議がないなら略式起訴で罰金○○万円ですぐ終わる、となると、 めんどくさいので、同意してしまうものです。
略式で済む場合に、多少事実と異なっても、わざわざ異議を唱えてまで争うべきかと問われると、 一般論として言えば、穏便に済ませた方が良いでしょう。 ただし、それをもとに民事で○億円の賠償請求が来そうな場合は、争った方が良いかもしれませんが…。 ともあれ、○億円の損害を与えたと認めれば、○○万円の罰金の略式ですぐ済ませてやる、というのは、 実態的には司法取引に近い気もします。
しかしこれは制度ではないので、 「これこれだと自供しないと××になるぞ」「自供すれば○○になるよう口をきいてやる」などと言っても その約束が果たされる保証はなく(だからこそビデオテープで取り調べを撮影しておくべきなのでしょうが)、 事実上だまされて、不利益な供述をさせられてしまうこともあり得ます。 だまされてさせられた供述がホントに罪状なら良いのですが、やってないことまで認めてしまうと、 司法取引どころか、黙秘権を奪われ、かつ、その結果を元に不利益な判決、ということになります。
やはり、いくら悪いことをして反省しているのが事実としても、 勢い余って、やっていないことまで認めてしまう必要はないのです。 まして、ホントは無関係のときは。 それを保証するのが「黙秘権」であり、 万一「これに署名押印すれば無罪にしてやる」などと言われても、日本にはそういう司法取引というものはなく、 無罪になる保証はゼロです。だまされている可能性の方が大きいです。 実際には、そこまであからさまに不法な取り調べ方法はとらず、 巧妙(限りなく強制だが形は任意、認めないと○○にも迷惑がとほのめかす、 証拠の残る肉体的拷問はないが精神的嫌がらせで自白に追い込むなど)ですから、 もし無実の罪で捕まってしまったり、事実にかかわっているもののやっていないことまで認めさせられそうになったら、 黙秘権のことも思い出して、なんとか頑張ってください。 黙秘権は権利なので、これを行使したこと(証言しないこと)自体で不利益な扱いを受けることはありません。 「やっていなければやっていないと言えるだろう。黙っているということはやましいことが」などとからまれますが、 大丈夫です。そういうロジックは成り立ちません。 否認すると(向こうも早く楽に終わらせたいので)間接的に嫌がらせは受ける可能性もありますが、 とりあえず、まずは弁護士を呼んでもらって、相談した方が良いでしょう。 当番弁護士に来てもらうのは一回目は無料なので「当番弁護士を頼みたい」と言うだけです。 弁護士を呼ぶだけで、相手も強引なことを多少慎むようになると思われます。 方針を相談して依頼する(受任してもらう)のが理想でしょう。 無実の場合、あまりに相手の態度に問題があるなら、 対抗策として黙秘も良いかもしれませんが、一般の人には完全黙秘は難しいと言われています。 適当に世間話程度はした方がいいかもしれません。
もしあなたが本当に罪を犯してしまったとするなら、 あなたがすべき最善のことは、恐らく事実の全容を過不足なく、すみやかに、明らかにすることです。 やったことについては認めなければなりませんし、 やってないことまで認めてはいけません。 覚えていることは言うべきですが、覚えていないこと分からないことについては、 そう認めるべきです。 事実の詳細を明らかにせず、つじつまの合わない点、不審な点を残すことは被害者に対してさらに非礼です。 検事の勝手なストーリーに従うと、しばしば、つじつまが合わなくなり、 後から実験事実と矛盾したりしてますます解決が長引きます。 これはあなたの不利になるだけでなく、長引くことで、被害者のストレスも増し被害者にさらに迷惑を及ぼします。 取調官の空想や検事作文に迎合せず、厳密に事実を明らかにすることが、すでに償いの一歩と考えてください。
無実の場合は、たぶん、実際に罪を犯しているより、いっそうつらい試練になるでしょう。 世間の人は、あれこれ言いつつも警察を信頼しており、あなたが逮捕されたことイコールあなたが犯罪者と誤解するでしょう。 しかし、まったく無関係なのに自分がやったことにすれば、真相解明が妨害され、被害者に対して失礼であり、 犯罪者(真犯人)を助けることになってしまうのです。大した罪でもないようだから面倒だからやったと言っておこう、などと妥協すると、 あとから矛盾が続出し、やっていない以上、詳細を説明できず、 逆に面倒が増大するので要注意。やっていないのに反省の演技もせねばならず、 しないと反省の色がないなどと量刑で不利になり、 どうやって迷惑をかけたのかもよく分からない被害者におわびの手紙を書くはめになり、 やっかい。「実際にやっていないなら、簡単にやっていないことを証明できるだろう。 少なくともやっていない以上、やったという証明はできないはず」というのが理屈なのですが、 取調官も「気迫と執念で」「認めるまで出ない」そうなので(w